気持ちが変われば火持ちも変わる

気持ちが変われば火持ちも変わる

「目には青葉 山ホトトギス 初鰹」 初物を食べると75日長生きするともいわれた元禄年間、「女房を質に入れても初鰹」といいながら有り金をはたいて鰹を食していた。普段は質素に、あらゆるものをリサイクルしながら生活していたエコな江戸の人々も女房への感謝を忘れ、この時とばかりに贅沢をしていたようである。

 リサイクルといえば、石油、石炭など化石燃料に依存する前までは、薪、炭がエネルギーの主役であり、かまどや囲炉裏、風呂などから出た灰も貴重な資源として活用されていた。民家では箱をつくり、大量に灰の出る湯屋や大店では、灰小屋をつくって溜まった灰をお金に換えていた。作物をつくるための肥料となる窒素、リン酸、カリ。このカリを担うのが灰であり作物をつくるために農家では大量の灰を必要としていた。また紺屋では染料をアルカリ性にするために灰を使用していた。これら多くの需要にこたえるために江戸時代には灰問屋なるものが存在し、昭和10年ごろまで続いていたといわれている。

 山菜の灰汁抜きやこんにゃくづくりに灰を使うのはよく知られているが、西郷隆盛が好んで食した灰汁巻(あくまき)も灰を利用した食べ物のひとつである。九州鹿児島といえば、黒潮からの贈り物である鰹を燻して乾燥させた鰹節で有名であるが、燻る際には地を這うように安定して燃える樫(かし)の薪を用いることが多い。そこで出てくる灰を水に溶かし、もち米を一晩つけ、竹の皮に包んで蒸して作ったのが灰汁巻である。茶褐色でザラッとしたゼリーのような見た目ではあるが、口に入れると意外においしい。いまでも端午の節句のころになると、きなこや黒蜜をかけてよく食べられている。この時期になると九州では灰汁巻をつくるための灰を求め、薪ストーブショップを訪れる方もいるそうである。

 火にかぶせると書いて灰になる。灰には炭酸カリウムが含まれており助燃作用がある。火鉢の中で熾った炭に灰をかぶせておくと酸素が少ない灰の中でゆっくりと燃え、長持ちするのはそのためである。暖炉や薪ストーブも同様で、シーズン中はある程度の灰を炉に溜めておくことをお勧めする。

 震災後、水道の水が飲める、温かいご飯がうまい、日常の当たり前のことがありがたいと思えてならない。冬を暖めてくれた暖炉、薪ストーブにも感謝をし、灰の掃除をしてください。日々のあらゆることに感謝の気持ちを持つと見方も変わってきます。まずは「カミサンニダ」

著者紹介
著者:岩崎秀明
株式会社メトスが誇る、炎の伝道士。
豊富な知識とこだわりを持って、暖炉および薪ストーブの普及に励んでいる。